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羽海野チカ
羽海野チカ 『ハチミツとクローバー(4)』-----------------------------------
高校とか大学とか、学校制度で唯一のいいところって、部室とかさ、そこへいけば誰か話し相手がいて、延々とダベリ続けられるような、そんな場が作れるってところ。みんなでたむろしてさ。前までお互い顔も知らなかったのに、いつのまにか、みんなでいるのが当たり前のようになって、バカなことやったり、誰かに片思いしたり。
真山に出前とってもらって、みんなが「センパイ好きっす」「すきすき」と言ってるのに便乗して、山田ちゃんも「スキ」って言おうとして、でも言えない。そんで涙ぐんじゃうの、かわいすぎです。(これ3巻のエピソードだったなそういや。でも4巻でも山田ちゃんの切なさぶりは爆発しております)
そんで、主人公たちのキラキラっぷりとは逆に、孤独で、愛する人にも死なれてしまってどんよりした人も出てくるのが、このマンガを深くしている。
帯の「この恋は空の色に似てるね」は、やはり
内田善美の
『空の色に似ている』からきているのかしら。
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2003年2月発行 集英社QUEENS COMICS [bk1・amzn]
塔島ひろみ
塔島ひろみ 『鈴木の人』-----------------------------------
塔島ひろみのように文章を書けたらどんなにいいだろうといつも思う、憧れの人である。
1962年東京生まれ。東京女子大学在学中の1985年、
『ユリイカ』の「新鋭詩人」に選ばれ詩人デビュー。1987年、特殊ミニコミ
『車掌』創刊(
タコシェ、
ぽえむぱろうる、
模索舎その他で購入可能)。夫は特殊音楽家の
とうじ魔とうじ(
電飾を体に巻いて楽しそう)。著作は『鈴木の人』の他に『ドキュメント・ザ・尾行』
[bk1・amzn]『楽しい「つづり方」教室』
[bk1・amzn]がある。
そうだ、『楽しい「つづり方」教室』には個人的な思い出があるんだった。『楽しい「つづり方」教室』を読んで非常に衝撃をうけた俺は、大学の部室へ「これおもしろい、ちょっといかれてるから読んで、おすすめ」と持っていって、そのまま部室に置き忘れて、卒業してしまった。そしてある日、近所の古本屋で、無職で金がないからいつものように百円均一棚「のみ」に目を凝らしていると、……んん、ん、こりゃめずらしい本があるな、塔島ひろみの『楽しい「つづり方」教室』じゃねーか、ふふん、ここらへんにもこんなの読んでるヤシがいるのか、はは、嬉しいね、と、手にとると、なんか見覚えが。……案の定……俺のじゃねーか!! 俺は読了した日付を奥付に書いとくので、すぐさま分かった。誰か売りやがったんである。もちろんすぐさま買い戻したのだった。そして思った。なんで二度も買わにゃならんのだ!! でも塔島ひろみの本ならそれもまたよし。
塔島ひろみの文体は地味であるけれど、つい笑ってしまう。例えば、鈴木さんは便利に使われるということの例で、鈴木貫太郎首相の紹介コラムがあって、こんな感じ。「」が引用部分。
海軍軍人だった鈴木さんは野心がなく無骨でまじめで便利そうだったので侍従長に任命された。「鈴木さんは忠実な天皇側近としての姿勢を示し、……和とまとめの鈴木さんらしさを発揮して、便利だった」。敗戦の色濃くなり、誰も首相になりたがらないが、その政治的野心のなさを買われ首相に。「せっかくポツダム宣言が発表されたのに軍部ではこれを無視して一億玉砕しようと決定、地位は総理大臣でも内実は『便利な鈴木さん』にすぎない鈴木さんは、心ならずも『この宣言は重視する要なきものと思う』と『無理強いに答弁』させられ、戦争は続いた。そして原爆が投下された。/そして『鈴木さんがポツダム宣言を拒否したので原爆が落ちた』と、軍部の責任は鈴木さんに転嫁され、鈴木さんはその便利な人柄をまっとうした」
いちばん笑ったのは、「鈴木さん名所めぐりコース例」。
「鈴木一郎下町コース 鈴木一郎宅(足立区)→鈴木一郎宅(荒川区)→鈴木一郎宅(江戸川区)→鈴木一郎宅(葛飾区)→鈴木一郎宅(墨田区)→鈴木一郎宅(台東区)……と下町の鈴木一郎宅(名所)を次々訪ね、スケッチする」
『車掌別冊 「鈴木さんの本」創作ノート』を読むと、この本を書くために、塔島ひろみは毎日毎日鈴木さんのことを考えている。古新聞を読むのが趣味の塔島ひろみは、鈴木さんが登場する記事を毎日毎日飽きずに切り抜いている。鈴木に対してたいへん無駄な労力をかけている。
ふざけたことを一途にやる。そうするといっけん真面目にみえる。でもやっぱふざけている。でも真面目なようでもあって、でもやっぱ結局ふざけてる? そこらへんの曖昧さが、塔島ひろみの(文体の)魅力である。
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1999年4月発行 洋泉社 [bk1・amzn]
PLAMO MILLIONSELLERS
プラモミリオンセラーズ 『FULL SCRATCHED』-----------------------------------
このあいだ安い酒を飲みつつワイドショーをながめていたら、
海月という、
劇男一世風靡の焼き直しのパフォーマンス集団が紹介されていて、リーダーらしき人が「ストリートから何か作っていきたい」と熱く語っていたので、思わず「ケッ、都からヘブンズアーチストのライセンスもらって、
森ビルの前で踊って、そんなんでストリート語んのかよ!! 踊るんなら新宿中央公園で
野宿者の前で踊れゴルア!!(゜Д゜)」と、酒臭い息で毒づきつつ脳裏に浮かんだのが、プラモミリオンセラーズの「商店街をストリートと言い張って恥垢にまみれたボクちゃん達は黄ばんだ何かを育んでる」という歌詞でした。
宅録の
ブライアン・ウィルソンこと(注1)プラモミリオンセラーズは鈴木周二のひとりユニット。4トラックのカセットMTRとファミコンとノスタルジーと皮肉と抒情でもって、ありふれた風景を切り取るその鮮やかさ。
「男前のミニミニサラリーマンガ視聴機でゴアトランスを必死んなって聞き比べてみてる 服飾かなんかに通っていそうな女子っ子は出身地をもみ消すようにやたらイキイキしてる」
例えばファミコン初期の名作ゲーム「ボコスカウォーズ」の懐かしいBGMにあわせて歌われるのは「運動神経よくなって滅茶苦茶お金持ちになって、やさしさをかいまみせて、無垢な感じにふるまって、インディーレーベル立ち上げて、古くからのファン自称して、……ユーモラスな死を遂げて、憧れられたいなー」という内容。
歌詞も良いけれど、プラモミリオンセラーズの作るメロディーは起伏に富んでいて覚えやすく、洗濯物を干してるとき、自転車で疾走しているとき、ふと鼻歌で歌ってしまうほど。
風のように永田(週刊ファミ通編集部)による帯の文章が泣かせます。「夜中に書いた手紙は夜中のうちに出すこと。鼻歌を最後まで歌いきること。愚痴の裏付けを捜さないこと。無駄な争いは避け、部屋で悪戦苦闘すること。そんなふうに紡がれた奇妙なハーモニーが、街の僕らを蹴飛ばして行く。」
生ぬるい世間に対して思わず斜めから茶々を入れてしまう中産階級の文科系の人や、ファミコンでスペランカーやボコスカウォーズをやりまくった人にもおすすめ。
ここで視聴可能。
ここでは視聴と購入可能。
(注1)これは私が呼んでいるだけであって世間的に通用はしていない、もちろん。ちなみに、京都のブライアン・ウィルソンは
OKミュージックボールの
永江孝志である
らしい。この調子で、埼玉のブライアン・ウィルソンとか、吉野家志木駅前店のブライアン・ウィルソンとかいろいろ応用がきいて便利です。
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1998年8月発売 Cafe au Label [amzn]
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→ 天龍新技「53歳」
→ ピエール瀧の体操36歳 [amzn]
→ 石井竜也“ニポップス”ってなんだろ? (´・ω・`)ショボーン
- めざましテレビの占い、一位だったけど、なんもいーことなんかねー。最下位でもさほど悪いことは起きねー。
- 前回気張ったこと書いたけど、けっきょく今までと同じように、だらだらいくんで、もう死ぬまで更新するから、数少ない読者の皆様(メールありがとうございます)、どうぞよろしく。
- いままでMDIBrowserを使っていて特に不満もなかったが、Sleipnirがやたら評判がいいので使ってみた。WWWCへ一発で登録できるツールがあったりして確かに便利だが、ページがフレーム分割されてると単語検索がきかないようだし、ブックマークが自動で隠れないので移行するかどうか迷う。俺のデスクトップは、右側にNeXT風の縦置きランチャーを置いているので、ブックマークで横幅をとられてしまうと、やたらと横幅を広く指定したページの閲覧がきびしくなる。そういうページに限って横幅を絶対指定してるからやっかいだ。
- パソコンの前に座っていると、それだけで時間がどんどん過ぎていく。情報収集が楽になって、ほんとにすごい量の情報をインターネットで得られるけれど、情報収集の手間が減ったからといって、それで前より他の能率が上がったかといえば、かえって無駄な作業が増えているだけのような気もする。モニターの前で得る情報より、映画館やライブハウスや街角から直接得られる情報のほうが、量は少ないが密度は濃いのではないか。そして、いくらネットでダウンロードできようが、映画は映画館でみたほうがいいし、音楽はライブハウスで聴いたほうがいい。主婦が洗濯機やらの電化製品の恩恵で暇になったかといえばそうでもなくて、むしろタライでのんびり洗ってた昔のほうがよっぽど豊かな時間を過ごしていたんじゃないだろうか。
- OUTDEX ANTENAでも更新時刻取得挫折のロック少年リハビリ日記だが、登録URLをhttp://member.nifty.ne.jp/MASUDA/rock/index.htmlでなくて、http://member.nifty.ne.jp/MASUDA/rock/にしたら取得できたようだ。なぜだかよくわからんけど。
アンテナ、こーいう使いかたもできるのか。
- 飼ってるハムスターがもうそろそろ晩年のはずなのに、ガリガリと囲いを齧って、ひさびさに巣から脱走。とらやの羊羹のフタで穴を補強した。しかしとらやがこんなオサレなページをもっているとは驚きだ。あんこが嫌いなので、あんこを固めた羊羹なんて大嫌いです。まだまだ若いつもりのハムさんの写真。
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→ 土龍団、濱田高志がまたまたイイ仕事。「アトム幻の主題歌 誕生日控え“復活”」
→ 立花隆の書斎大公開 4階の「非公開」が気になる。いったい何が?
→ パゾリーニ・コレクション
→ あなたのサイトはこう終わる!(改訂版)
- 自分は自分が書いたものを誰に読んで欲しいのか、ということを考えてみた。そうすると、いままで自分は、仮想敵に向かってしか書いていないことに気が付いた。一日数十ヒットしかしないサイトにとって、これはかなり無意味なことなんじゃないだろうか。では改めて誰に読んで欲しいのか。というより、誰に向けて書くのか。書きたいのか。いままでこれを考えなかったがために、自分の立ち位置が決まらず、曖昧な文章しか書けなかったのだ。
消去法で消していこう。例えば、『網状言論F改』[bk1・amzn]を読む人たち、『アフタヌーン』や『コミックビーム』や西尾維新を読む人たち、コミケにいく人たち、インターネットで本やアニメやゲームについて書く人たち、フィッシュマンズを聴くような人たち。チャートに上位ランキングしないような本やCDを買う人たち。つまりは自分で自分の嗜好を確立している人たちは消される。
では誰かといえば上記と反対の人たちだろう。東浩紀を牽引役にしている「おたく」についての分析的言説について全く知らない人たち、なんとなく『ジャンプ』や浜崎あゆみしか手にしない人たち、インターネットに接続しない・できない人たち、ひきこもりの人たち、絶望して死のうとしている人たち、『ご近所スキャンダル』を読む主婦たち、石原まこちん『The 3名様』[bk1・amzn]で描かれるような、ガストにたむろしている若い人たち、そして、単純低賃金労働に明け暮れるフリーターたち。大雑把にくくるが、そのようなさまざまな意味で「貧民」な潜在的プロレタリアート層に向けて自分は書きたい。その当人たちが読んで理解できて、まわりの世界の意味を新しく掴み取るきっかけになような文章を、自分は書きたい。書ければいいな。きっと書くぞいつか。(あー、また偉そうにナ、んな能力もないくせに……)
- とりあえず洗濯しよ。
栗原まもる
栗原まもる 『…青春中!』全2巻
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もうほとんど使っていないノートパソコンを久々にいじっていたら、読みたいマンガリストの文書中にこの栗原まもるのマンガがあって、その日ブクオフでちょうど見つけたので買って読んだら、今まで読まずにきたことを激しく後悔するほどおもしろかった。
話のベースは少女マンガなんだけど、初期の
しりあがり寿なみに作中で絵柄がコロコロ変わって、パスティーシュがうまい。
つのだじろう風には大笑い。
主人公は
広末涼子→
石原さとみの流れの短髪少女。マンガ好きはもちろん、短髪好きにもおすすめ。
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1998年1月発行 講談社KCデザート [bk1・amzn]
牧野虚太郎
牧野虚太郎 『牧野虚太郎詩集』-----------------------------------
牧野虚太郎はたった12篇ほどの詩を残して、1941年に20歳そこそこの若さで夭折した
編者の
鮎川信夫は牧野について「『完璧な詩人』の典型」とあとがきで評している。その詩は次のようなもの。
アパートの屋上にはアスピリンがほしてある
恋愛は大声で歯を磨くに初まるとの事
コップをわることを覚えた若い詩人諸君よ
ために咽喉を透明なシャボンで洗い給え
猿のなやみは三本の毛に止まるのですが
ハンカチイフ・パアテイは目下開催中である
むかれたリンゴの皮だけを残して
後はパラフィン紙に包みたいと思ひますよ
(「破れた靴下」よりはじめの二段)
ランプをあつめれば
あなたの喪章につづいて
悲しい鏡と
静かにおかれた影がある
ことさらの審判に
私のナイフはさびて
つづれをまとふた影がある
誰もゐないと
言葉だけが美しい
(「復讐」全篇)
総じて難解な詩が多いが、でも、このあたりはなんとなく分かる。何かの気分が伝わってくるし、リズムも言葉も美しい。
相田みつをや326の詩でしょうもない現状肯定にひたるよりも、難解な現代詩の言葉で宙吊りにされるほうが百倍マシだという意地っ張りな心意気の人にオススメ。
版元の国文社のwebで最近注文したら、1978年の初版が送られてきた。よっぽど売れなかったんである。bk1でもamazonでもまだ買える。
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1978年10月発行 国文社 [bk1・amzn]
かわいい
タカハシマコ 『女の子は特別教』
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男性向け美少女マンガ誌の『ホットミルク』(すでに休刊)掲載短編を集めたもの。
おぼろな瞳、繊細な線で、ひたすらかわいい。
ロリのファンタジーを巧妙に裏切っているので、ある意味で残酷。
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2002年3月発行 コアマガジンHOT MILK COMICS EX [bk1・amzn]
小石川ふに 『マジカル ふにゃっと』
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物語から自律して動き回ってるネコがかわいい。
これも男性向け美少女雑誌『零式』連載。美少女マンガって、なぜだか少女マンガの血が入っている。
例えば、
ナヲコ(『DIFERENT VIEW』
[amzn])や
流星ひかるなんて、モロに少女マンガである。そういえばエロゲの『AIR』って大島弓子の「ダリアの帯」
らしい(エロゲは全くやらないので実際分からないが)。
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2002年12月発行 シュベール出版零式COMICS [bk1・amzn]
山名沢湖 『いちご実験室』
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へんてこな発明ばかりするハカセと、ハカセの隣に住む女の子の話。
世界中がイチゴで埋めつくされちゃえばいいのに。
「ハカセ へんてこだね」「おう へんてこだろ」
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2003年1月発行 講談社KCDX [bk1・amzn]
ばらスィー 『苺ましまろ(1)』
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小学校高学年と高校一年の女の子たちの、だらだらした日常を描く。
高校一年の子がヘヴィースモーカーだったり、ぶっきらぼうな言葉使いとか、ちょっとやさぐれててイイ。
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2003年1月発行 メディアワークス電撃COMICS [bk1・amzn]
-
→ 北尾トロの欠歯生活
→ 書評のメルマガ 塩山芳明の連載「版元様の御殿拝見」がヤバすぎ!!
→ livly 飼ってみた
→ 石原さとみ、J-PHONEのCMで人気急上昇 かつての広末と同じオーラが
- 『モーニング』(2/20号,No.10)を立ち読み。新人の読切、増田留美子「DO FAMILY」。むかしに亡くした息子を偲んでいる家族の家へ、殺人を犯した逃亡犯が逃げ込んでくる。ひょんなことで殺人犯は頭を打って記憶をなくしてしまう。家族は殺人犯に「おまえは私たちの息子だ」と思い込ませようとする話。よくできた話で引き込まれる。ちょっと古い感じの絵柄が誰かに似ているな、とずっと考えて考えて、もう少しで喉から出そうなんだが、と、今、そうか、この作者には倉多江美の絵の片鱗があるのだ、と分かったところでどうということもないのだが、せっかく思いついたので、書いておく。たぶんこーいうどーでもいいようなことをメモしておくためにだけあるのだ、この日記は。
- 「おジャ魔女どれみドッカ〜ン!」の後番組「明日のナージャ」をはじめて観た。むかしフジテレビでやってた世界名作劇場のようだった。とりあえず観続けてみる。
- いっこうにインフルエンザにかからない。
網野善彦
網野善彦 『古文書返却の旅 戦後史学史の一齣』
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戦後のどさくさにまぎれて水産庁の研究所が集めまくった古文書は、集めすぎて収拾がつかなくなり、そのうちに研究所も廃止になり、古文書のつまった膨大なダンボールはあちこちの施設を転々とし、けっきょく何十年も未返却のままおかれることになった。かつて集めた研究者のうちの一人でもあった網野善彦が、その古文書群を返却する旅に出る。
図書館の返却期限を過ぎてしまったので、読まずに返そうかと思ったが、そんなことしなくて良かった。おもしろすぎる。
返却行脚の過程で、新文書がぞくぞく出てくる。襖の下張を剥がしたら、豪農と思われていた時国家とサハリンとの交易文書が出てきたりする(
エロ小説は出てこない)。それら新発見をもとに、「士農工商」は虚像、「百姓」は「農民」ではないといった、常識をひっくり返すいわゆる
網野史観が形成されていく。
もし借りた当時の約束どおりに2、3ヶ月で返却されていたら、その後の新発見もなかったわけで、そうなると、
隆慶一郎の小説も『もののけ姫』も今の形ではなかったかもしれないことを思えば、何十年も返却できなかったというのは「失敗」だったけれど、思わぬケガの功名を生み出してるわけで、世の中、うまくできてるもんである。
自分は浪人までしていながら神奈川大学なんて三流私大しか合格しなくて、「でもあの網野善彦がいるんだから、いいや」と慰めつつ、その割には網野先生の授業にもあまり出ず、単位は落としてしまったわけだが、あの頃、もっと授業に出ていればよかったなーと、いまさら後悔した。
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1999年10月発行 中公新書 [bk1・amzn]
高橋源一郎
高橋源一郎 『もっとも危険な読書』-----------------------------------
最近亡くなった
安原顕のイイ仕事のひとつに、10年以上前に角川文庫で出ていた
『読書の快楽』『活字中毒養成ギプス』『恋愛小説の快楽』といったブックガイドがある(編集は現
幻冬舎社長の見城徹)。これらブックガイドをもとに読んではマーカーで消し、読んでは消しという、はたから見ればかなーり孤独で暗いことを中学高校とやっていたのも、今とはなっては全部いい思い出だ(ウソだろゴルァ!!)。
高橋源一郎は『読書の快楽』で少女マンガを、『恋愛小説の快楽』で主に少女マンガと現代詩を紹介していた。いまだに自分が現代詩や短歌や少女マンガを読みつづけているのは、たぶんにこの頃の高橋源一郎(と、もちろん
橋本治)の啓蒙が大きい。
この『もっとも危険な読書』でも
田中槐の「ほおづきを口に含んだままのキス友だちに戻れたとして、さて」という短歌や、
辻征夫や
田村隆一の詩が取り上げられていて、相変わらずだなぁと嬉しくなった。さっそくリブロの
ぽえむぱろうるにでも行って田中槐を買ってこなくちゃ。
あと、気になったのはカフカの日記。「映画館へ行った。泣いた。『ロロッテ』。善人の牧師。小さな自転車。両親の許し。とほうもない楽しさ。その前は悲しい映画『ドックでの惨劇』、そのあとに愉快な『やっとひとり』。僕はまったく空虚で意味のない存在だ。横を走りすぎてゆく電車の方が、はるかに多くの生き生きした意味を持っている」(
ハンス・ツィシュラー『カフカ、映画に行く』
[bk1・amzn])。うん、いい。カフカの日記、もっと読みたいぞ。
カルヴィーノが「次の千年の文学」に必要とした6つの要素。「軽さ」「速さ」「正確さ」「視覚性」「多様性」「一貫性」(『カルヴィーノの文学講義』
[bk1・amzn])。これはたしか持ってるので今夜にでも読もう。
「脳が何かを考えているから『書く』のではなく、目の前に次々と出現している言葉を見ながら無意識のうちに、刺激と反応を繰り返し、その結果としてなにかを考えているかのように『書く』だけなのだ」という結論に達するという
信原幸弘『考える脳・考えない脳』
[bk1・amzn]とか、読みたい本ばっかりで、ドキドキする。
ブックガイドといえば
フリースタイルで刊行予定の『教養主義!』なんて、人選がちょっとメジャーすぎるけれど、いちおう期待大ではなかろうか。
(ところで、今回
この本のbk1書評で初めて知ったが、大好きな詩人の
片岡直子が
bk1で書評をたくさん書いているのでちょっと驚いた。)
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2001年4月発行 朝日新聞社 [bk1・amzn]
友成純一
友成純一 『ネッシー殺人事件』-----------------------------------
大学のネッシー研究会がネス湖のほとりで卵をハケーンして日本に持ち帰る。その卵から怪物が孵って人を殺しまくるという、話としては本当にどうでもいい話。けっきょく怪物はネッシーだったのか否か分からないし、怪物が倒されることもなく、尻すぼみに終了。スプラッター描写があれば話なんてどうでもいいんだっていう、とてもなげやりな作者の心意気がいい。
例えば「柘榴を割ったような有り様の中から、眼球が二つ、糸を引いてぶらさがっている。……。激しく身悶えしているというのに千切れることもなく、眼球は帽子のボンボン飾りのように忙しく揺れていた」。こういうモロにスプラッター映画な描写の小説は友成純一を嚆矢とするだろう。
1章から9章まであって、それぞれサブタイトルが順に「受験生、暁に死す」「天井を走る怪音」「残虐なる殺人者は誰?」「ああ、我らネス湖探検隊PART1-3」「怪獣だなんて、馬鹿ね、ほんとに」「変身怪獣ネッシー」「少年探偵団、活躍す」。「怪獣だなんて、馬鹿ね、ほんとに」なんて、女子から言われてみたくないですか。
ヒューマニズムのかけらもない『陵辱の魔界』(1985年マドンナ文庫、のちに幻冬舎アウトロー文庫
[amzn])もオススメ。
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1991年5月発行 講談社NOVELS [amzn]
ピーズ
『The ピーズ』-----------------------------------
1997年以来、活動停止していたピーズが、活動再開。生きててよかった。
スタジオにマイクを何本か立てて、ハル、アビ、シンイチロウ(from
the pillows 「やるんだったら俺やるからな。下手くそなドラム入れるようなら、俺が手伝うから俺を誘えよ!」(『BREaTH』vol.32)って、シンイチロウ、泣かせるね。)の出す音をそのまんま録ってるんだろう、多分。ほとんど加工していない、覚悟を決めた音。負け犬が地べたから見上げた青空。
ファンっていうか、オラ、単にかぶれてるから、もう、なんでも、なんでもいいんだ。死ぬまで付き合うんだ。聴きつづけるんだぜ。
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2003年2月発売 [amzn]
江戸アケミ
『江戸アケミ十三回忌 天国でのゴール』-----------------------------------
出演は演奏順に、
湯浅学、
サミー前田、
向井秀徳+PANIC SMILE+菊池成孔、
遠藤ミチロウ、
高田エージ、
町田康、
JAGABATA(
田口トモロヲ)、
MAJESTIC CIRCUS、
LUNATIC THUNDER(
近田春夫)、
こだま和文、
大槻ケンヂ、
deepcount、
伊藤耕&ブルースビンンボーズ、じゃがたら残党組。合間にJAGATARAのビデオが挟まる構成。
案の定寝ていて遅刻。7時開始で7時ごろ新宿に到着。ついでだからとタワレコでピーズの新譜を予約。ロフトに着いたときには、向井秀徳+PANIC SMILE+菊池成孔が終わる直前。すぐにJAGATARAのビデオが始まった。驚いたのはJAGATARAの演奏がまったく古びていないってことで、直前にちょっとだけ聴けたPANIC SMILE+菊池成孔の演奏とほとんど同じように聞こえた。これにはほんとに驚いた。日本語を乗せるファンクなリズムって、JAGATARAで完成されていたのだなと思った。遠藤ミチロウはモッシング娘。(
インサイターの02/02参照)もカバーしている「お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました」と対になる「父よ、あなたは偉かった」をエレアコ弾き語り。高度経済成長とかバブルとか、そんなユートピアなんかもうありゃしねえ(かなり意訳、いや誤訳かも)と恐竜の遠吠え。迫力。町田康の詩の朗読、終わるたびに「ありがとう」って言うのが笑える。青空海岸JAGABATAは暗黒大陸JAGATARAのコピーバンド。田口トモロヲ+
面影ラッキーホール。ロフトの入り口に「危険な行為禁止」って書いてあんのに、トモロヲ、客席に向かってダイブ。ステージに戻って、自らズボンを下げて尻丸出し。もう
NHK出入り禁止んなっちゃうよ。近田春夫と江戸アケミはリズム繋がり。どちらもリズム至上主義のように思う。LUNATIC THUNDER(近田春夫)は低音で延々と同じリズムを繰り返す。直前に飲んだビールの効果もあって、かなりリズムに酔った。こだま和文はちょっと通ぶった人に人気があるんだろうけど、正直、オイラにはその良さが分からない。飄々としたキャラクターは好きだけれど。deepcountはゲストに
DJ KRUSH。ヒップホップとかテクノ系とかそこから派生したなんやらかんやらとか、あんま聞かないからはっきり言えないけど、その手の音楽としてはかなりレヴェルが高かったんだろうってことだけは分かった。ずーーっとダブ続きだったので、伊藤耕&ブルースビンンボーズのストレートなロックがかえって新鮮に響く。ボーカルがかなり壊れていて楽しかった。「おれたちゃよ、ほんとにビンボーなんだよ」。んで、ラスト、JAGATARA残党組。かつてと同じことはやりたくないってのは分かる。しかしこだま和文とかLUNATIC THUNDERとかdeepcountとか同じような音を聴いた後だったんで、またこれかよと思ってしまいました。もう低音はいいよ、機械をチマチマいじくるのはいいよ。難しいだろうけど、何か他にやりようはなかったんだろうか。アケミが生きてたとして、今流行りの機械のリズムで救われるだろうか、機械をチマチマ操作してるOTOをバックに歌うだろうか。
この日は「もうがまんできない」のカヴァーを3、4回聴いた。「ちょっとのひずみなら何とかやれる ちょっとのひずみなら 我慢次第で何とかやれる 日々の暮らしには辛抱が大切だから ちょっとの搾取なら 誰だってそりゃ我慢できるさ それがちょっとの搾取なら 心の持ちようさ」という曲。「心の持ちようさ」ってところがサビんなってるから、勘違いしがちだが、江戸アケミの意図としては、「でもやっぱり心の持ちようじゃどうにもなんないこともある」ってことだろ。でも会場で「心の持ちようさ」と合唱しているのをきいてると、みんな勘違いしてんじゃないかなーと不安になる。オイラ、どうしても抵抗があって「心の持ちようさ」と合唱できなかった。アメリカのトップ10企業の社長の年収が185億とか、先進国のもつ特許のおかげで途上国では薬が作れなくてどんどん人が死んでくとか、こーいうのって、もう「搾取」じゃないよ。心の持ちようもくそもない。
江戸アケミはオヤジギャグの人だった。椅子に座るときでも、「
よっこいしょういち(
横井庄一)」と、つねにオヤジギャグを怠らないと田口トモロヲがいい思い出話をしていた。さっそく家に帰って、「よっこいしょういち」とやってみたら、同居人に「ぜんぜんおもしろくない」とバカにされた。そりゃそうだよな。アケミがやらなきゃサマにならんだろ。惜しい人を亡くした。
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2003年1月31日 at 新宿ロフト
けろりん
けろりん 『Body Language』-----------------------------------
誰が読んでも作者は女性だと分かるだろう。殺伐とした感じがまったくない、ラブラブなエロマンガ。
女の子にさんざん辱辱プレイを要求されたあと、「じゃあ交代だよう。どうして欲しい?」と訊ねられた男の子、曰く「だっこして愛してるって言ってくれる?」。こーいう甘い場面って、男性エロマンガ家にはなかなか描けない。
今風だけどちょっと懐かしい感じもする絵柄は多数に受けるだろうし、良い編集者がつけば化けると思う。ポスト
二宮ひかるだろうか。
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2002年5月発行 大都社 [bk1・amzn]
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最新
2003年
2月 1月
2002年
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10月下旬
10月上旬
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夏休み
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5月
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