1997年4月



#29(火)

◆病院でつきそい。病院食をちょっち食べてみたが不味い。




#30(水)

◆群馬県庁前の古本屋で、龍膽寺雄『風に関するEpisode』(サバト館)を三千円で買う。少々高いが、『えろちか 龍膽寺雄傑作選』を読んでから龍膽寺 雄にはまってしまったのだ。あと同じ龍膽寺雄『塔の幻想』(サバト館)も手に入れた。でもこのサバト館発行の二冊は、龍膽寺が好んで描いたタイプの少女「魔子」が登場する作品がほとんど収録されていないので物足りない。現在簡単に読める龍膽寺作品といったら講談社文芸文庫の『放浪時代/アパアトの女たちと僕と』と平凡社の『モダン都市文学』シリーズくらいか。前者は「M・子への遺言」と中沢けいの解説にも何もなっていない文章を外してその代わりに「機関車に巣喰ふ」「魔子」「接吻? 硝子の味がするだけさ」「階段を下りる」「山の感傷詩から」あたりの短篇を収録すればよかったのに。




#28(月)

◆ブックオフで『現代詩文庫 黒田三郎詩集』、横光利一『上海』、あとりケ イ(漢字出ない)子『夏待ち』、好美のぼる『感情線悪魔の子守歌』、桐島いつみ『まっかな人間像(1)』(これ前に買ったような気がするけど百円だからまあいいや)を買う。700円ほど。それにしてもブックオフってどこにでもあるな。




#27(日)

◆妹が「おにいちゃんおにいちゃん」と譫言を言ってるから至急帰れとのこと。

◆途中、中野のまんだらけで塩山芳明『嫌われ者の記 』、浜岡賢次『浦安鉄筋家族(12)』、内田善美『自選複製原画集 少年たちの記憶』を買う。同じ中野ブロードウェイの中古CD屋でGROUND-ZERO『CONSUME RED』も買う。タコシェにいけば『熱烈投稿』で紹介されてた好美のぼるの復刻本があるかと思ったけどなかった。で、模索社にも行ってみたが、ない。玄田生のサイン本に食指を動かされつつも自粛。

◆3時間電車に揺られて帰省。帰りの電車では、香山リカ『自転車旅行主義』(青土社)を半分くらい読む。群馬県伊勢崎市民病院へ。身内が病気で豹変した姿というのは奇妙な感情を呼び起こさせられる。妹は訳わからんことをずっと叫んでいる。そのうち慣れる。慣れというのは恐ろしいもんだ。最初は茫然と妹の叫ぶ姿を見ていたが、慣れると「このバカうるせい」となる。

◆病室に泊まる。




#26(土)

ストリップ初体験。妹が重体だってのになんてアニキだろうね、まったく。ポラロイドショーで大股びらきのポラ撮ったり、女優と一緒にプリクラ大会してる場合じゃないんだよ。




#25(金)

◆ゼミ。サークルの飲み会。飲みすぎて気持ちわりい。死にそう。夜中、ふらふらになりながら帰って、留守電を聞くと、妹が交通事故にあって重体とのこと。明日は、鶴見にストリップを見に行くのにな。




#24(木)

◆そろそろ帰るかってことで、友人宅をおいとまする。

◆またママチャリで10キロほど。途中、柿生あたりのBOOK&(二階が「まみれ」という名のビデオ屋の古本ショップ)で、山野一『ウオの目君(1)(2)』、とりみき『人達』、ジュール・シュペルヴィエル(澁澤龍彦訳)『ひとさらい』。合計ちょうど千円。

◆ママチャリ爆走15キロ。夕飯の買物。茄子、鳥肉。横浜の我が家に到着。3日振りの我が家。メールが400通くらいたまってた。




#23(水)

◆一日中ごろごろしてた。友人はちゃんと帝京大学へ授業受けにいってたけど。偉いね。

◆ペルーで人質開放。ペルーは日本ほど甘ちゃんじゃないね。着々と強行突破の準備してたんだから。国家ってのはそういうもんだけど。だからこそ抵抗しなきゃならんのだけど。もしあの事件の舞台が日本だったら、一年かかっても解決しないかもね。責任のなすりあいを続けるんだろうな。それにしてもさ、大使館の警備が日本の警備会社だけっていうのはいったい何を考えてるんだろうね、ペルーだよあの、平和な日本じゃなくて。それにペルー人の人質は日本側で招いたパーティーの客なんだから、どう考えたって日本側の手落ちだよな。cf. リマ日本大使公邸占拠関係情報




#22(火)

◆ブックオフの広告がきたので二人で行ってみたがまだ開店してなかった。それにしても多摩センターの辺りは、おもしろい古本屋地帯となりつつあるなぁ。もちろん店舗数は神保町にかなうわけないけど、店舗面積はめちゃくちゃ広いのだ。

◆また博蝶堂で『性神の風景』(どうしてもこの手の本を見かけると買ってしまうな)、チチ松村『それゆけ茶人』、岡田睦『薔薇の椅子』、大島弓子選集10『ダリアの帯』、佐藤史生『ゼロワン全四巻』、森内俊雄『夢の始まり』、石坂洋次郎『風と石と樹と』(いまどきこんなの買ってるのオイラくらいじゃないか?)、ヘンリー・ミラー『南回帰線』、ニコラウス・ガッター『乙女の祈り』、山田太一『丘の上の向日葵』、梅棹忠夫『地球時代の日本人』、蒲松齢(柴田天馬訳)『聊齋志異 1巻』、奥野健男『太宰治論』、軒上泊『ウェルター/サード』、深沢七郎『庶民列伝』、モラヴィア『無関心な人々』を買う。合わせて300円。あと、サントラCD『愛してご免なさい』を500円で。




#21(月)

◆中央大学に潜り込む。外観がかっちょいい。中は広い。生協も広い。図書館も広い。龍膽寺雄全集もある。マウンテンバイクライダーもある。門前に郵便局があってしかも中にもキャッシュコーナーがある。広いからごちゃごちゃしてないし緑も多い。うらまやしい。大学いくならレベルの高いところの方が何かと得だというのを実感してしまった。授業にも潜ろうと思ったけど、時間割りがどこに貼ってあるんだか分からないので止めた。

博蝶堂で出々社の最新科学小説集(もはや最新じゃなくて古典だが)を15冊ぐらいと、坂田靖子『夜のお茶会』と赤塚不二夫の70年代のチャンピオンコミックス(タイトル失念)、江國香織『つめたいよるに』、現代詩文庫16『那珂太郎詩集』を買う。合わせて200円。博蝶堂は、一袋100円コーナーがあって大好きさ。ときどきつめすぎて袋を破っちゃったりするけどさ。

◆レンタルビデオ屋の中古で、ラス・メイヤーの『草むらの快楽』。980円で購入。そいで、 酒飲んで寝る。




#20(日)

◆情報処理試験の管理員のバイト。こんなにラクなバイトがあっていいんすか? マジで。午前中は廊下で待機。午後は本部の教室で読書と昼寝。龍膽寺雄『放浪時代/アパアトの女たちと僕と』を読了。バイト代13000円もらう。毎週ないかな、こういうバイト。

◆ 金が入ると嬉しくなって、自転車で八王子へ。横浜から八王子の帝京大学近くまで2、30キロってとこだが、ママチャリだと辛い。でもママチャリで北海道へ行った人もいるんだからなぁ。 友人宅に到着してラーメン屋へ。山菜ラーメン。まぁまぁ。二人ともにんにく臭くなる。

ブックスーパーいとうって夜0時までやってるんだね。驚いた。陽気婢『えっちーず2』、南Q太『TAKE THE "A" TRAIN』、『アリスの城 vol.2』、浜岡賢二『浦安鉄筋家族セレクション』買う。多摩のあたりは二階建の古本屋が結構あって驚く。

ブルース・リー『死亡遊戯』見ながら寝る。原題は『Game of Death』。これを『死亡遊戯』と訳すセンスが素晴らしいなぁ。今の映画タイトルのほとんどは、英語をそのまんまカタカナにしてるだけでつまらん。




#19(土)

◆白楽駅前の古本屋で『ガロ』を買う。いつもは買わないけど、写真の女の子がかわいかったので買ってしまいました。篠原涼子にちょっと似ている。そういえば、最近電車で篠原涼子そっくりの人を見た。あの人は篠原涼子より綺麗だったな。服装からしてOLだと推測したけど、ああいう綺麗な人がOLだけで終わってしまうのは惜しいなぁ。レベルの低いヘアヌードやらが溢れている日本はある種不幸だ。で、久々にじっくり『ガロ』読んだ。津野裕子のマンガがよかった。涼しい感じ。ラストのモノローグが好きっす。前に『デリシャス』という単行本を読んでいるが、あれに比べるとかなり進歩してる。別にそんなことオイラが偉そうに言ってもしょうがないんだけどさ。あと東陽片岡は切ないし、田口智朗の再録マンガはバカでいいなぁ。「ねじ式Tシャツ」はまだ分かるが、「ヒヤパカTシャツ」とか「さむくないかいTシャツ」なんて絶対着れないよ。

◆ ふらっと自由が丘へいく。古本屋を覗くと、国書刊行会の吉屋信子の本とか、平口広美とか広瀬正『タイムマシンの作り方』の初版とかいろいろ欲しいのがあって、買おうかどうしようか迷ったが結局何も買わずに帰ってくる。どっかに龍膽寺雄全集売ってないっすかね。神保町にでも行けばあるのかな。でも検索してもないんだよな。

サム・ライミ制作総指揮で期待の『アメリカン・ゴシック』。プロローグとしてはまぁまぁだが、ライミ総指揮にしてはバカ度 が低い。NHKは『ER』、テレ朝は『X−FILES』と海外ドラマの放送が増えてるが、どうせならどこかでラース・フォン・トリアーの『キングダム』をやらないかな。無理か。

NHK『ポップジャム』、広末涼子初めてテレビで歌う。竹内まりあにゃ悪いけど広末涼子が歌ってなかったら聴かないよこんなつまんねい曲。歌詞のとおりに全身で表現しようとひたむきに努力する涼子嬢の姿には心打たれた。「ポケベル」という商品名をそのまま歌わせるたぁ、NHKも甘くなったな。浅野ゆう子の『Bus stop Remenber』(だったけ?)でもカヴァーしてほしいね広末嬢には。

電気グルーヴの新曲がディスコで、Puffyの新曲もディスコ。さいきんディスコが流行ってるのだろうか。なぜ今ディスコなのか? 近田春夫なら理由を説明できるのだろうが、オイラは歴史を把握してないから分からない。




#18

◆ コンビニで『TVぴあ』買う。広末雑誌を買うのは久しぶり。『20世紀ノスタルジア』の試写会、当たるといいなぁ。でも今まで一回も広末関係で当たったことないんだよなぁ。




#17

横浜美術館から『イメージフォーラム・フェスティバル1997』の案内がくる。

◆コーヒー入り炭酸飲料『cafeGUARANA』というのが新発売とあったのでさっそく買って飲んでみる。味が気色悪い。でも慣れるとちょっとおいしいかなと思わなくもないが結論としては不味い。実験精神は素晴らしいが、売れないだろう。なんでコーヒー味にしたのか理解できないぞペプシよ。『GON』で日本一のマズジューと貶されるのも時間の問題だろう。




#16

シノラー石野卓球から離れるらしいが、これからは今までと正反対に突っ走ってほしい。合唱曲を唄うとかね。歌うまいんだから。声質も真面目な感じだし。例えば、赤い鳥の楽曲をカヴァーするとかね。シノラーMLに入る。




#15

◆録画しておいた『エヴァ』の最終三話を観る。これが人気爆発なのがよく分かりやした。『エヴァ』を観る前に、たまたまNHKで『現代少女についての一考察』とかいうのを観たが、それに登場した少女が語る悩みと、シンジ君の悩みというのが見事に一致している。要するに自分のなかに確固たるアイデンティティがないっていう悩み。エリクソンがアイデンティティなんて概念つくるから悩んじゃうんだよな。そもそも人間は言葉に翻弄されてる。「無意識は言語のように構造化されている」というラカンの言葉通り、全ての根源は言語だ。バロウズは「言葉はウイルスだ」というようなことを言っている(確か)。ラストの「ありがとうお父さん」「さようならお母さん」にはぐっとくるものがあった。予想していたよりも破綻してなかった。もっとめちゃくちゃなのかと思ってたのに。すごく真面目だ。別にいろんな伏線や謎の解決を観たいとは思わないのでわざわざ映画館にはいかないだろう。あの監督がオリジナルな解決を創るとは思えないし。映画なんてつくって欲しくなかったな。『エヴァ』はテレビ版だけで完結してるんだから。でもビデオ出たらレンタルするけどさ。

◆今年もゴキちゃんの出没する季節になったのか、今年になって今日はじめてゴキを見た。まだ子供らしく小さくかわいかったので殺さなかった。ゴキブリの語源はなんなんだろう。広辞苑で調べると「御器噛り(ごきかぶり)の転」とある。なんと伝染病を媒介するそうだ。やばいな。コンバットでもしかけるか。でもあれって効き目があるのかないのか目に見えないから分からないんだよな。

◆そういや今日の『笑っていいとも』のテレフォンショッキング、ゲスト広末嬢だったのに見逃したやんか。でもレコード発売日にゲストなんていくらなんでも露骨だ。まさかホントに友達の輪だと思ってる人もいないんだろうけどさ。

ベイビーフェイスがグラミー賞総なめらしいけど、オイラにはあの手の音楽ってどこがいいのか分からないっす。奥田民生の外し方のほうがよっぽどおもしろい。『これが私の生きる道』のコード進行もおもろかったけど、『サーキットの娘』の「わたしのところへ〜」ってあそこであのセブンスに落ちたのを聞いたときは驚きました。有線に流れるような音楽聞いてて驚いたのって久しぶりだ。パフィーだからできるんだろうなぁ。ヘンなことしても売れるんだから。




#14

奥菜恵主演のドラマ『ふたり』を観る。なんでいまさら『ふたり』なんだ。ドラマ化する原作なんて腐るほどあるんだからなにもまた『ふたり』を映像化する必要ないだろう。Remediosの音楽はなかなかいいんだけど、あれはRemediosの力というよりもスピッツの主題歌のメロディーの良さに助けられてる。ハープだけで通せばいいのに、テレビドラマっぽいストリングスとピアノの通俗的アレンジに陥ってしまってるのが惜しい。

◆最近、有線でカスタネッツの『ハック』を聞くことが多い。『ハック』は名曲です。

◆ 夜テレビをつけるとちょうど『あなあきロンドンブーツ』が始まるところなのだ。オイラが見るときはいつも、がさ入れコーナーがクロなんだけど。「あなあき」って「アナーキー」とかけてるんだってことを初めて知った。




#13

◆ 『いいひと』がドラマ化される。こういうのを観る人が将来『釣りバカ日誌』を観るようになるのだろう。同じサラリーマンものならば『宮本から君へ』でもドラマ化してほしいよ。あれは基本的に『いいひと』と同じものを求めているのだけれどその過程が違う。例えば現実のサラリーマンが『いいひと』とか読んでおもしろいと思うのだろうか。嫌いだけれどつい読んでしまうって感じなのだろう。本宮ひろ志の描く主人公ぐらいダイナミックならば文句なく楽しめるのだけれどね。

◆マンガのドラマ化はたくさんやってほしい。テレビドラマなんてマンガ以前のレベルだから。とくに連続ドラマは酷いよ。冬休みは『星の金貨』の総集編と『バージンロード』の最終回を見た。『星の金貨』は笑うね。妹と一緒に観てたけど彼女も笑ってたよ。あれは広末が出てなかったら途中で消してた。あほか。『バージンロード』もなんなんだ。せっかく死んだんだと思ったら実は生きてたなんてありか。そのまま死んでろよ深町。しかもあんなくだらん理由付けが許されるのはテレビドラマだけだぞ。テレビドラマの脚本家はいったい何を考えてるんだ。視聴者をなめているのか。野沢尚にはがんばってほしいよ。それにしてもなんで『おいしい関係』の脚本を野沢尚が書いてたのだろう。全然タイプが違うのに。早く山田太一の『ふぞろいの林檎』を見たいよ。再放送で観た『タイムキーパーズ』は良かった。あの手のジュブナイルSFドラマをもっとテレビでやってほしい。そうだ『沙粧妙子』のスペシャルも観たんだった。時間の無駄だった。なんなんだあの弛緩しきった無意味な長さ。無駄な時間を使わせるな。ナンシー関が書いてたように、観たほうが悪いと諦めるしかないのか。それにしてもつまらなかったな。でもあれで満足してる人もいるんだろうな。そういう人には佐藤寿保のピンク映画を見せたいよ。驚くから。それにしても飯田譲治は何故いつまでも『沙粧妙子』なんかに名前を連ねるのだ。




◆今月の映画↓

『クロッカーズ』監・スパイク・リー。 車が固定された画面を横切るカットが印象に残った。社会学をちょっと勉強した人なら難なく「社会統制」を読み取れるだろう。しかし現実はこんなに分かりやすいのかなあ? 黒人間の階級差をもっと描いてほしいな。★★★

『12モンキーズ』監・テリー・ギリアム。 これはSF的に見てもいろいろ無視している部分がありすぎる。例えばそんな簡単に同時代に同じ二人の人間を出現させていいんか? 構成の様式美を重視したのだろうが、あまりに単純すぎないだろうか。それと、あの精神病院の描写はあんまりじゃないだろうか。いくらなんでもあれはないだろう。ブラッド・ピットの演技も型にはまっててつまらない。音楽にピアソラをつかったのは良かったけど。それなりに退屈はしなかったけど。cf.淀川長治の映画評★★★

◆4/13、三百人劇場にて、 『熱帯魚』監・陳玉勲。 まず『太陽の少年』の予告が流れた。見たくなった。「カヴァレリア・ルスティカーナ」が音楽で流れてたけど、本当に劇中でも使ってるのかな。いい感じ。で、本編。不覚にもラスト涙が出てきたよ。ある言葉がでてくるのだが、こういう言葉に弱いな。たしか『ガロ』の上野昂志の映画評にも書いてあったが、冒頭から北野武の影響が見られることに気付くだろう。しかし北野武の映画ほど非大衆向けという訳ではなく、『熱帯魚』は映画的教養のない例えば初めて映画を見るような人が見ても、おもしろいと感じるような映画。素晴らしい。レベルをさげれば大衆向けだと思ってる周防正行とは大違いだよ。★★★★★

『勝手にしやがれ 成金計画』監・黒沢清。 特に冒頭のカットが好きだ。外見はVシネマだけど、あの絵はまぎれもなく映画だ。 ★★★★

『shall we dance』監・周防正行。 日本アカデミー賞を独占しようがどうでもいいことだ。でもまさか草刈民世が主演女優賞を獲るとは思わなかったよ。多和田葉子が芥川賞を獲ったときと同じくらい驚いたよ。それにしてもスポンサーが映画会社の賞に何の意味があるのだろう。さらに『キッズ・リターン』があからさまに排除されていたのはどういうことなのだろう。どうでもいいことだ。見てないから分からないがどうせ『キネマ旬報』でも一位なのだろう。どうでもいいことだ。しかし『shall we dance』レベルで騒がれるというのは何なんだろう。世の中の殆どの人が「これがほんとうの映画なんだ。映画ってこういうもんだよね」と思ってしまったらかわいそうだ。しかし世の中の殆どの人はオイラとは関係ない人なのだからどうでもいいことだ。とにかくオイラは周防正行を観るなら渋谷実でも見てたほうがいいよ。★★★

『ともだちが来た』脚・鈴江俊郎, 演・岩松了。 映画じゃなくて演劇だけれども、たまたまテレビで見て凄く良かった!! ★★★★★




◆今月のマンガ↓

児嶋都『純生キッド』 。 『恐怖の館』でしか読んだことなかったので、昔こういうのを描いてたとは意外だった。[エニックス]★★★★

ふくやまけいこ『お父さんのクリスマス』。 汚れた心が洗われます。[大都社]★★★★

伊藤潤二『路地裏』。 例えば79から80ページの展開とその絵を見れば、伊藤潤二がいかに読み手の視線を意識して描いているかが分かる。[朝日ソノラマ]★★★★

森山塔『あとは寝るだけ』森山塔が音楽に造形の深いことはその作品群から読み取れる。「姦のメロディ」の、お嬢様プリペアード・ピアノが良いですね。ジョン・ケージ先生も天国で涙を流していることでせう。[フランス書院]★★★★

森山塔『ずっと朝まで…』。 このフランス書院文庫に収録されている作品は全部単行本で読んでしまっている。古本屋ではビニールがかかってたので、そうとは分からず買ってしまったのでした。しかし「転校生」「キはキノコのキ」「ペギミンH」と続けて読んでみると、この三作品には同じような特徴があることに気付いたのです。夢オチとハッピーエンドということです。過剰に展開してきた物語を最後にひっくりかえすことによって、現実の悲しさなんかが叙情的に際立つわけです。「キはキノコのキ」と「ペギミンH」のラストは膨大な森山塔の作品群のなかでも屈指のラストだといえましょう。特に「ペギミンH」のラストカットの生い茂る木々や葉には作者の思い入れを感じます。その叙情性に大島弓子と同じものを感じてしまうのはオイラだけでしょうか。[フランス書院]★★★★★

森山塔『なんかヘンな気…』。 通過儀礼を描く「セムイの日」が良いです。日曜フジの「世界名作劇場」を思わせますね。少女の大きな傷は何を表しているのでしょうか。[フランス書院]★★★★

森雅之『ペッパーミント物語』。 リリック。オトナになるにつれて忘れていってしまうような、誰にでも覚えがあるようなことをきちんと捕らえて表現するというのは難しい。[集英社]★★★★★

くらもちふさこ『天然コケッコー(1,2)』。 文句のつけようがないです。[集英社]★★★★★

あんど慶周『究極!!変態仮面(1)』。 健全にバカバカしくて好きです。[集英社]★★★★★

蛭子能収『私はバカになりたい』。 [青林堂]★★★

蛭子能収『シュール・ド・エロ 狂ったバナナ』。 『パラサイト・イヴ』が山野一の、松浦理恵子『親指Pの冒険』(タイトル違うかも)が村祖俊一の短篇のパクリであるように、映画『僕らはみんな生きている』はこの本の蛭子能収の短篇をパクったにちがいない。(ホントか?!) この単行本を読めば蛭子能収の凄さが分かる。
佐伯俊男がかった絵だし日本より海外に出せば評価されるだろうなぁ。それにしても凄い。感動しました。やっぱりエロマンガやピンク映画のほうがおもしろい才能が出現する。しかし漫★画太郎は『ジャンプ』でデビューしたのだからメジャーも見逃せない。 [辰己出版]★★★★★

漫F画太郎『まんゆうき(壱)』。 反復によるギャグが鮮やか。アシスタントが主人公を描いて作者が背景その他を描くという発想も凄い。破滅型天才ですな。[集英社]★★★★★

浜岡賢次『浦安鉄筋家族(13)』。 これほど少年ギャグマンガらしいマンガもないだろう。正統派でありながら実はマニアック。『浦安・・・』の同人誌ってないのかな。あったら買うのに。[秋田書店]★★★★★

江川広美『BATH communication』。江川広美の絵が好きだ。例えば同じ山本直樹のアシスタント出身でも、玄田生には師匠の絵の片鱗が見られるが、江川広美にはそれが見られない。[メディアックス]★★★★

高橋葉介『学校怪談(2)』。 純愛怪談3部作が良い。高橋葉介の絵は徐々に簡素化の道を辿ってきているが、目の描写だけは変わらない。空にだけCGを使っているのがなかなかいい感じ。CGは最小限かつ効果的に使うのがいい。[秋田書店]★★★★

澤井健『イオナ(7)』。 雨、委員長と相合傘。やっぱ学級委員長は美人で頭が良くないとね。[小学館]★★★★

『パイク(弐)』。 唐沢なをきとねこぢるを混ぜたような絵で活劇ギャグを繰り広げるTARGOのさわやか作品や、うらまっくの非アニメ的でかわいい素朴な絵。高円寺の風景を描いているのだがなぜか無国籍な印象を受けるあびゅうきょの絵も相変わらず良いが、マンガとして一番レベルが高いのは、あめかすりの作品だ。朝生賀子の16ミリフィルム『パアプリンプウ』を思い起したり、マンガと映画の違いや共通点を考えたりした。映画もマンガも絵を並べているという点では同じだ。映画は一秒24コマだけれど、マンガは時間に縛られず自由だ。映画では空白という表現はないがマンガにはある。考えはじめると深みにはまってしまうのでもう寝る。おやすみなさい。[フュージョン・プロダクト]★★★★

梁山泊プロ『大学五年生』。お母さんゴメンなさい号。裏表紙、超合金ロボの広告のパロディが秀逸。特に、「飲む、泣く、さわぐの3大ギミック」は笑った。「お子さんが口に入れると危険ですので意図的に気付かれないように殺って下さい。」というのもおもしろい。「地獄でランバダ踊ってな!!」も素晴らしい。中身は、水木しげると楳図かずおと石井いさみとエロと変態とギャグが絶妙に交ざっていて良いです。付録のカセットテープがまた素晴らしかったです。ただもうちょっと中身のレイアウトなどを凝って、元ネタの『小学三年生』誌に似せるとよかったかも。例えば『愛蔵版・激走戦隊カーレンジャー超全集』に載ってた「チーキュの歩き方」「ちゃう」「なかよろし」「月刊ダッシュ」みたく。★★★★

業田良家『自虐の詩(上)(下)』。 「前略おかあちゃん」のコマの絵がめちゃくちゃ好き。あの場面でああいうアングルの絵をもってこられると、もう泣くしかない。たぶんあの絵を描けて作者は何かふっきれたんじゃないか? 実際あそこから4コママンガを逸脱しはじめている。ラストでは逸脱しながらも全体としては、現象を断片的に切り取るという4コママンガの形式がうまく生かされている。体裁としてはギャグ4コマなんだけどめちゃくちゃディープで、少し太宰治が入っていて、くる人にはめちゃくちゃくる。(修飾語が「めちゃくちゃ」ばっかやな。なんて語彙が貧困なんだオイラは)。作者の実体験にもとづかずに全てのエピソードを想像で描いているのだとしたらこれは凄いことだよ。そういえば岡崎京子は女子高生の友達がいるわけでなく、情報源は『トゥナイト2』の女子高生特集ぐらいだと言っていた。本当の創作というのは現実を写し取るだけでは足りないということだ。一瞬の風景を足掛かりにそこから物語を紡ぎだし構築していくのが創作ということなのだろう。「誰でも必ず一つの小説は書くことができる」なんて言葉を聞くが、それは嘘だ。自分が現実に体験してきた人生を書き取るだけでは小説とはいえない。書くのではなく描くのだ。業田良家は映画の人なんじゃないだろうか。熊本さんの路地泣きのロングショットや、ラスト、駅を「ハーハー」言いながら走る幸江の描写なんてマンガではあんまりやらないことだと思う。ああいうのは映像の手法だろう。カットバックの使い方なんて凄い。これほど効果的なカットバックはなかなかない。ラスト近くの餞別のシーン(下巻277ページ)の過去から未来への展開の鮮やかさ。もう泣くしかない。力強い「完」の文字にまた泣くのだ。業田良家の人生をかけた「完」だ。「この人生を二度と幸や不幸で はかりません。/なんということでしょう/人生には意味があるだけです。/ただ人生の厳粛な意味をかみしめていけばいい。/勇気がわいてきます」。 [竹書房]★★★★★




◆今月の本↓

龍膽寺雄『放浪時代/アパアトの女たちと僕と』。 「放浪時代」のラスト、「兄さんのおみやげだよ。炭だってあるんだぜ!」という魔子の言葉が好き。語尾の「だぜ!」というのが魔子っぽくて、こういう野性的、中性的ながらも女性的魅力を放つヒロインを描かせたら龍膽寺雄の右に出るものなし。今の自分の身につまされる話でした。ゼイヤグウト!!★★★★★[講談社文芸文庫]

『薔薇の椅子』岡田睦。 ★★★★[雲井書店]

一橋文哉『闇に消えた怪人 グリコ森永事件の真相』。「グリコ森永事件」がこんなに広がりがあるものだとは思わなかった。現実がこんなにおもしろいものだとは思わなかった。夜中一人で読んでたら怖くなった。警察でさえも触れられない団体X。気になる。 [新潮社]★★★★★

雨森零『月の裏まで走っていけた』。文芸賞受賞第二作。雨森零は好きで注目している。オーソドックスで古いんだけどどこか突き抜けた感じがある。福間健二が帯を書いているのはオイラにはすごくよく分かる。この作品は福間健二の詩と同じような感触を受けるのだ。例えば、「間違っているけど/ものすごく間違っている訳じゃないだろう」という福間健二の詩と、この作品の主人公たちの生き方というのがとても似ている。 [河出書房新社]★★★★

加藤旭之『自転車にのって』。最近、自転車を本格的に乗ろうと思い始めたので、その手の本を読みだした。しかし、この本はあまり役に立たないっす。それなりにおもしろい体験をしているのだが、書き方がいまいち。もっと詳しく書いてほしいよ。 [南雲堂]★★★

一條裕子『自転車キャンピング』。これは役立つしおもしろかった。 [アテネ書房]★★★★

野田秀樹『怪盗乱魔』。のれなかった。 [新潮社]★★★

大槻ケンヂ『ボクはこんなことを考えている』。 超常現象に対する興味の持ち方や、おっかけ少女の分析など極めて社会学的であって、大槻ケンヂはミュージシャンより社会学者に向いている。★★★★

秋山仁『秋山仁の遊びからつくる数学』。「数学なんて実際に役にたたないじゃんか」「百年後には役に立ってるかもね」 [講談社]★★★

『ブックTHE文芸(1)』。若手の純文学作家の文体って軽やかそうで重たい。さいきん龍膽寺雄の短編をいくつか読んだけど、あそこらへんの時代の文体を現代に生かせば、おもしろいのが書けると思うのだ。

『美しさという神話』。 タイトル通りの中身ですな。 美しさに捕われすぎる必要はないと理屈では分かっていても化粧をやめることはできないだろう。美しさという社会統制は消えないだろうな。「美しくなければならない」という強迫観念もなかなか消えないだろうな。そういや、「美しさ」と同じく「幸福」というのも強迫観念だなぁ。でも幸福は強制されないけど、美しさは強制されるという点では異なっている。別に幸福である必要はないんだよなぁ。そう考えたら生きてくの楽になるだろうなぁ。★★★★

立原道造全集1』。 リリックですな。★★★★★

片岡義男『東京青年』。心地よいですな。『ゴールデンデラックス』を復刻して欲しいよ。 [早川書房]★★★★★





3/1997||5/1997


ISHIHARA, Shingo
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