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目次
「etude ?」
「etude ?」
はき声
「etude ?」
くせえ
通り
アンテナ
ESP
教室
ガガガって
ファミリー・スタディ
消える、もしくはあらわれる



「etude ?」


傘の先で目を突つかれそうな気がする。雨。バス停にはヒヤシンスが咲いている。わたしはベンチに座ってバスを待つ。隣の席の肺を患う友達の見舞いへいく。教室。今はいない空白の席のむこう、窓ガラス越しに木々の葉がゆれる。ゆれている。子供のころに見たサーカスが忘れられない。赤鼻ピエロの指先は何を指していた? 雨。公団アパートの水槽に猫が沈んでいていた。雨。水たまりのなかへまで世界は続いていく。バスが来るまで、どの続きを歩いていくか。いら草の先のほうへ踏み出そう、と、ふいにわたしの名前が、あ、先生、あ。振り返る速度、角度の正しさ、秩序をくずしてはいけない。

傘の先で目を突つかれそうな気がする。雨。バス停にはヒヤシンスが咲いている。わたしはベンチに座ってバスを待つ。女生徒が隣接している。家族のためにメモすることが多すぎるのだが。公団の屋根の人影、こちらを見ている。見ている。落ちろ、水たまりへ、落ちろ落ちろ落ちろ。雨。信頼すべき物理法則。握手するスヌーピーとチャーリー・ブラウン。憎むべきもの愛すべきものはすでにない。生徒の体が動き、影が動く。夕暮れ、逢魔が時の挨拶を交わす。話すことなどないはずだ。


「etude ?」


無職になると 片腕がしびれるなんて知らなかったな

sweet twentyfive

殿山泰司の文体には学ぶところが多い


はき声


近くから 遠くから
あなたの はき声が聞こえる
ぐげっ ぐげー
ぐげっ ぐげー
詩人の声だ

いつのまにか 伝染してしまった
旅人のもたらす あたらしい言葉?
あたしも
ぐげっ ぐげー
ぐげっ ぐげー

壁一枚へだてて
顔をあわせたこともない
あまい知恵の果実 まに受けた わたしたち
ぐげっ ぐげー
ぐげっ ぐげー
挨拶だ

みがかれていく身体の角度

今日も わたしたちは
声をあわせて
はく!

子供の頃に見た
かびた背中が忘れられない

ぐげっ ぐげー
ぐげっ ぐげー
ふたり
はき声で つながっている

の?



「etude ?」


音楽室で いつも踊ってた彼女は
  くるくるくる
そののち さまざまにまわって
  くるくるくる
僕の妻となり 子供をまわした
  くるくるくる

彼女が云うには 娘がコピーバンド組んでるんだってさ
もう?
ジュディ・アンド・マリー ?
椎名林檎なら ドキドキする

人生はC7ひとつの響きにも如かない
こともない

人は聞こえるものしか聞かないだろう
人は聞こえないものしか聞かないだろう
君はどんな音を世界にのせる?

風は吹かないようだ……



くせえ


世の中がくせえ
世の中がくせえ

そりゃ おいら一週間フロ入ってねえさ
そんなこっちゃないんだ

世の中がくせえ

にんにくむいたら
くせえにおいがとれないのさ



通り


影を動かさず走り出す点猫
美容師の口紅は停滞する
白いショーツがざわざわと
女友達は英雄のように軽い

点猫の主張はいつも明快で

おれは東からやってきた
押しつぶされそうになって 命からがら逃れてきたのだ
え?
遠くからだ 遠くからやってきたのだ
雑種はいつも動いていなくちゃならない
この通りは日が落ちるのが早くて楽だ 知っているか
誰も十字架など背負っていないことを 知っているか
降る雨がどこから来るかということを 知っているか
未だにおれがここにいるということが理解できないことを
知っているか だから
ふるえるのだ

図々しい

「ダダは線ではない、ダダは点である」
あ こんな所に市営プール
わからないって愉快なことだ



アンテナ


世界中の屋上を集めても
碧空には届かない

子供の頃はみな屋上で空を見上げた
アンテナを広げて



ESP


子供のようなしぐさで 彼女はスプーンを曲げ
「ちょっとしたコツよ」
なんて云うんだ



教室


小学生は 教室で読み継いだ
「はい次は○○さん」
先生に指差さされ すくっと立ち上がり
背筋をぴりりとのばして!!

ひとつのものを みんなで読んだ

そんなことはもう あれきりだろう
声を出して みんなで 少しずつ
少しずつ……



ガガガって


台風の日は  傘を開くと飛べたんだ  行こうよ!  どこまでも行こう!

日々の雑事……

踊るように働いた日は  排出でさえポップだ  「いっそ金がお芝居ならば」と三上寛は唄い  「ほとんど勤勉と同じこととして怠惰を持ち込むことができたら」 と藤井貞和は書いたけれど  けれど  ガッガガ ガガガ  働く 働く  「最悪、それ以下」  ガッガガ ガガガ  「お前もそこらへんのサラリーマンと同じだ」  ガッガガ ガガガ  ヴァン・ヴォクトは90分ごとに睡眠と覚醒を繰り返し  夢見るように小説を書いた  ガッガガ ガガガ 

校庭で  腕をからませ  タラッタラタラタ  ウサギのダンス  そんな風に今日の朝を起きる

生きているってこんなこと?  生きているってこんなこと!!



ファミリー・スタディ


友達がいないから
平面的に老成中
「家系図を書いてみなさい!!」
水面へと関係を辿ってゆけば
白鳥は転覆
それでも寄ってくる 悪気の無い
言葉はポケットティッシュに変われ!!
有益に人々の手に渡るだろう
「家系図を書いてみなさい!!」
父親の題名失念
頼りなくて運転もたのめない
ぐるぐる車線変更できない
「だから、家系図を書いてみなさいってば!!」



消える、もしくはあらわれる


静かな季節だ
やがて世界は四角に区切られるだろう
吐息のように消える
忘れられた水曜日
愛や勇気などいらないけれど
終わりとはじまりは必要だ




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